「敗因と」 第2章 --- 団結 --- P.84 〜

P.84 〜 (文:戸塚 啓)

ドイツワールドカップの期間中、三浦は宮本に電話をかけている。確かブラジル戦の前だったはずだ。
「言葉には感情が出るでしょう?ツネは賢い人間だから、人の悪口とかは一切言わない。言わないけど声のトーンとかで分かる。ああ、うまくいってないんだなあ、って感じた」

「ヒデとかがね、彼も自分を犠牲にしながらだけど、仲良し集団じゃダメみたいなことを言ってたでしょう。それはね、たぶんみんなわかってるんですよ。分かってるんだけど、僕は厳しさの中で戦うよりも、、もっと、グっとスクラムを組むじゃないけど、みんなで戦うほうが、日本代表って言うのはそういうチームのほうが良いんじゃないかと」

「みんながひとつの目標に向かって同じ方向を目指して『よっしゃ、行くぞ!』ってなったときにはね、たとえば誰かがかわされても、事前に万が一抜かれたらってことを考えるものなんですよ。そうしたら身体が30センチそっちへ動いてるもの。ただ、その人との関係があまりうまくいっていない、好きじゃないっていう感じだと、『お前、取れよ!』みたいなことになる。逆に30センチ離れたり。そういうことって、けっこうあるんですよ。逆にすごい仲のいい奴がボールを取られたら、奪ったろう、取り返したろうって思う。削られたら『ふざけんな!』って相手チームのところに行く。試合中は仲良しとか、、仲が悪いとかは関係ないって言われるんですけど、身体の反応ってそういうところが出るんですよ。絶対にそうなんですよ。嫌いな者同士でうまくいく、っていう世界じゃないでしょう」

(中略)

ブラジル戦のあの場面が、藤田には違和感として残った。

「ヒデが最後にあそこでごろんとしていたときに、みんなが何で行かなかったの?行ってもらえないヒデがいたの?っていうのがすごく頭に残っているんです・・・・・・。ヒデもみんなから来てもらえない選手になっちゃったのって。状況は分からないけど、誰かがいるのに行かないって言うのは違和感がある。しかも、1分や2分じゃないでしょう?みんな勝ちたいためにやっていたはずが、何かの掛け違いがあったのかなあ、と」

(中略)

いまでも土肥は、あのチームには大いなるポテンシャルがあったと思っている。完成形へもっていければ、もっと上へいけたはずだと。

「あのメンバーで上に行けないわけはないと思います。あのメンバーで行けなかったことが逆におかしい、と僕は思いますよ。ベスト8?くじ運というか、相手もあるので何とも言えないですけれど、行ける可能性はあったんじゃないかな。それだけに、ホント、ショックはかなり大きかったですね。腑抜けじゃないですけど、脱力感のほうが強かった」

ドイツ・ワールドカップの日本代表には、30歳以上の選手が3人しかいなかった。
3人ともGKだった。
フィールドプレーヤーに30歳以上の選手がひとりもいないのは32カ国で日本だけだった。