「敗因と」 第7章 --- 消極 --- P. 213〜

P. 213〜 (文:戸塚 啓)

《チャンスをいくつかふいにしましたが、クロアチアのほうが優勢でした。PKのシーンは本当に残念です。後半もこういうブレーをしていけば勝てますよ》
クロアチアのテレビ局の解説者は、後半への期待を言葉に込めた。リトバルスキーも同じ意見だった,

《ご覧のとおり、クロアチアのほうが断然いいです。日本には気迫が少し足りません。ハーフタイムに、ジーコが何か指示を与えてくるとは思いますが》

RTLの画面は、スタジアム内の放送ブースに切り替わっている。白いポロシャツを着た女性のコメンテーターが、リトバルスキーに聞く。
《私は両チームとも気迫が足りなかったような気がしますが、いかがでしょうか。クロアチアはもっとプレッシャーをかけてくると思っていたんですが……》
うんうん、と頷きながら、リトバルスキーが答える。
クロアチアはいつもこのような問題を抱えています。ブラジル相手にすごくいいブレーをしたあとで、次の相手が日本になったわけです。日本はまあ、それほど強い相手じゃないというので、あのような戦い方をしてしまっているんでしょう。逆に日本は、私の考えでは、相手をあまりにもリスペクトし過ぎている。恐れを抱いている部分がありますね」

トークが切れたところで、宮本がブルショを倒したシーンが流される。リトバルスキーが改めて解説をする。
《宮本はリベロとしては、一対一の局面であまりにも弱すぎるんです。日本代表にはちょっと問題がある。それは、坪井がケガをしていることです。彼のほうが4バックではいいフレーができるんですが。宮本は所属クラブでも常に試合に出ているわけではありません。昨年は、ベンチで控えとなっていることも多々ありましたしね。けれども、代表戦には出場しているんです。ジーコはたぶん彼のことが好きなんでしょうね。それで、代表に残しているんだと思います。現状を見る限り、宮本は日本代表にとって、明らかに危険な部分だと言えます》

二コ・クラニチャールのシュートがバーを叩いた、28分の場面もリプレイされた。リトバルスキーの表情に不安を察したのか、女性アナウンサーが問いかける。
《あなたは日本人の心も持ち合わせていますね? 何か言いたいことは?》
《もちろん、感情的な部分はあります。ただ、自分はできるだけ現実に眼を向けているつもりです。とにかくもっといろいろなことをしないといけませんし、なによりもアグレッシブさが欠けている。前半の終盤でもあったことなのですが、もっと積極的に一対一での勝負に打って出て、シュートヘ持っていかないと》

クロアチアのテレビ局では、解説者がオシムの言葉を引用した。彼を含めた3人のゲストコメンテーターは、ザグレブのスタジオで前半を総括していた。すでに後半が始まる直前で、センターサークルの手前では稲本潤一が準備をしている。交代選手を示す数字は「15」だった。
オシムは『日本はすごく疲れている』と言っていましたね。ですから、できるだけ日本の最終ラインにブレッシャーをかけなければなりません。福西は一番疲れていましたし、あまりいいブレーをしていなかったので、この交代はうなずけます。福西はとにかく走り回っていましたからね。それからオシムは、『前半の日本は非常に悪い出来だった』とも話していました。このままのブレーを日本が続けてくれるようでしたら、クロアチアは大丈夫です》

クロアチアのロッカールームには、クラニチャール監督の声が響いていた。
「チャンスは作れている。あとはゴールを決めるだけだ!」

キャプテンの二コ・コバチがチームメイトのモチベーションを高める。
「後半はもっと積極的にブレーしよう。攻めるんだ」