「敗因と」 第2章 --- 団結 --- P.78 〜

P.78 〜 (文:戸塚 啓)

時間でしょうか、と土肥洋一は言った。

ドイツ・ワールドカップの日本代表に一体感をもたらすには何が必要だったのか、という質問への答えである。

ジーコが監督になってやってきた中で、海外組、国内組という感じで言われてきて。アジアカップとかは国内組中心でいって、優勝して、自信をもってるわけですよ。でも、海外組が帰ってくると試合に出る。どこかで不平、不満があがる。そういう意味ではワールドカップもどうなるか分からない。やっぱり(海外組が)出ちゃうという状態が、良くなかったんじゃないかなと。ずっと同じメンバーでやってきて、そのメンバーで行きますよというのであれば、出られない選手も納得するのかもしれないですけど、帰ってきて今までの自分のポジションに他の選手が出るという・・・・・・そういった面ではひとつになっていなかったと思いますし。もっと時間が必要だったんじゃないかな、と」

しかし、レギュラーがいて控えがいるというのは、どこのチームも同じである。日本代表だけが特殊な状況に置かれていたわけではない。

「確かに甘いと言われれば甘いかもしれないですけど、そこで監督がうまく起用していれば、ちょっとは違ったんじゃないかな。やっぱり、ヒデ(中田英寿)とシュン(中村俊輔)は最後まで代えなかったですよね。そういったところで、どうせ代わらないんでしょう、という選手もいたことはいたし。たとえば紅白戦で調子が良ければ、レギュラー組に使ってやればまた変わっていたと思うんです。ブラジル人特有なのかもしれないですけど、固定メンバーでずっとやっていきましたから・・・・・・。そういうところをみんなは理解できなかったのかな」

自分が感じたことを誤解なく伝えるには、どんな表現がふさわしいのだろうか。土肥は懸命に言葉を探しているようだった。

「一体感があったか、ないかといえば、僕もベンチで見ていて・・・・・・ない、と思います。でもブラジル戦でタマ(玉田圭司)が1点入れた瞬間は、みんなに火がついた。ようやく。これ、いけるんじゃないか、と。そのあとも巻が追いかけて、スライディングしてギリギリのプレーをみせたり。そういうことだと思うんですよ。それができるのにやらなかったのも敗因だと思います」

柔らかい表現を心がけても、本心だけは曲げられない。隠せない。

「一体感がなかったというか、チームとしてなってなかった、ってことなんです。それがひとつのチームにしようとしたトルシエジーコの違いなのかな、とも思います。指令塔はひとりでいい、とか。ヒデとシュンだったら、ヒデをボランチに置いてもかぶることがありますし。シュンも自分にボールを集めて欲しい。タカ(高原直泰)もくれ、と。みんなそれぞれ、個々のあれが強すぎて」

あれとは「主張」とか「言い分」に置き換えられるだろう。

「ここにボールが来たらこう動くとか、周りのことを考えないで、自分中心だったのかな、みんなが。指示じゃなくて文句になってたというのも事実じゃないですか。『上がれよ』とか。『上がってくれ』じゃなくて。そのちょっとした言い方が変われば、もっとうまくいったんじゃないかな。自分が試合に出られればいい、という選手は少なからずいたと思います。チームの勝利は考えてるんですけど、自分が出て、っていうのが強い選手のほうが多かったのかな、と。試合に出ていない選手のなかにも、ベンチだから関係ないという選手もいたと思いますし。勝つために何をやるかっていうところで、ひとつになってない。オーストラリアであれば、イタリアを潰してやろう、大金星をあげてやろうと。俺たちの実力を見せようよ、というところで全員がひとつになってたんじゃないですかね」

「そういったものは、一切感じられなかったです」

(中略)

「試合中のベンチにいて、僕とナラは必死になって応援してました。ブラジル戦で出場停止だったツ(宮本恒靖)も、自分もピッチに入っているような気持ちですごい応援してましたね。『あっ、いってるぞ!』とか。でも、ぼうっと見てたり、『あーあ』とか言ってる選手もいて。ホントに歯がゆかったですね。ただ、それが現状だった。練習では普通に仲がいいんですけど、チームが分けられた瞬間に『あ、また俺はこっちなのか』と言う選手もいたし」

「いままで代表に選ばれてきて、試合に出る、出ないは関係なしに、代表でやってきたものが、この3試合で終わっちゃった?っていうような。えっ?っっていう。辛い練習−−−−近くからシュートを打たれるのを止めたり、練習が終わってやっと上がれると思ったら、はい、もうちょっとやろうと言われたり。そういう苦しい中でやってきて、必死でやってきてここまでしがみついて、食らいついてきたのに、この3試合で・・・・・・これで終わり?これで?っていう感じで。何もやってないじゃん、みんなまだ、って。何をしたの?この3試合でっていう気持ちはすごくありますね」