「敗因と」 第2章 --- 団結 --- P.73 〜

P.73 〜 (文:戸塚 啓)

キリンカップでペルーとUAEに連敗したショックは、事前合宿地のアブダビへ移動してもチーム内に沈殿していた。
全員が揃ったところで、宮本が切り出した。

「じゃあ、アツさん、お願いします」

レギュラーではない自分が一番最初に発言するのは予想外だったが、求められればすぐに意見をする準備はできていた。最終予選バーレーンとのアウェーゲームは、3日後に迫っている。ためらいはなかった。

「いい選手だから海外へ行くわけじゃないですか?だけど、紅白戦になるとBチームが強いんですよ。もちろんBチームは失うものがないんだけど、何かこう、レギュラーのAチームは気を遣ってるんですよ。お互いにいい選手だから、あんまり言わない。それじゃあ、うまくいくわけがないでしょう。海外の選手を使うことについて、いろんな意見があったけど、僕に言わせれば海外へ行く実力があるんだから代表で試合に出るのは当然だし、そこでディスカッションをしてやれば、鬼に金棒じゃないですか。実力がある人たちのなかでそういうことができれば一番いいでしょう。それが、できていなかった」

チームメイトの視線が集中する。三浦が口を開いた。

「僕自身はこの大会が最後のワールドカップだと思ってるから、絶対にドイツに行きたい。ホントに懸けてるんだ。自分に出来ることを一生懸命やって頑張るから、みんなもっと必死に、例えば一対一では
絶対に負けないだとか、そういう気持ちを練習から見せて行こうよ。戦術がどうこう言うよりもまず、自分にできることをしっかりとやろうよ」

アブダビの夜』として知られるこのミーティングについて選手に聞くと、まるで申し合わせたよう「アツさんが戦う気持ちを出そう、一対一に勝とうっていうような話をしてくれた」という答が返ってくる。三浦が忘れているセンテンスを覚えている選手もいた。

このままではバーレーンに勝てない。本大会出場が遠のく。危機感から出た三浦の熱い思いは、選手たちへストレートに響いたのだった。

「みんなこう、前のめりになるような感じで『うん、うん』って聞いてくれて。そのときはホントに聞いてくれた」

三浦が口火を切ったミーティングは深夜におよんだ。レギュラーも控え選手も関係ない。遠慮のない意見がぶつかり合う。その前提には、ワールドカップに出たいという思いが滲んでいる。
良かった、と三浦は思った。

「僕が代表に入ってから、あそこまで必死に、どうやって勝っていくんだってことを話し合ったのは初めてだったから」

「誰だって試合に出たいですよ。ベンチに座るためだけに代表に入っているわけじゃない。だけど、チームの足を引っ張ることだけは絶対にやっちゃいけないじゃないですか。どうやったら自分が1パーセントでもチームのためにプラスになれるかってことを考えたら・・・・・・出ている選手を勇気づけたりとかね。そういういろいろなサポートの仕方がある」

(中略)

大黒
「アツさんがよく言ってたのは、『控え組が頑張ってやれば自分たちのためにもなるし、僕らが一生懸やることで先発の選手のためにもなるって。だから、全力でやろう』って。そうか、そうやなぁって思いましたね」

しかし、05年9月のホンジュラス戦を最後に、三浦もまたチームを離れることになる。