「敗因と」 第1章 --- 愛憎 ---

P.27 〜 P.28 (文:戸塚 啓)

記憶をたどる準備が、このやり取りで整った。トルコの名門クラブの監督から、日本代表を率いたジーコにゆっくりと戻っていく。
「クラブは毎日練習ができるから、そういう意味ではやりやすいね。代表だと何か課題があっても、次に集合できるのは1ヶ月後だったりするから。あれだけ技術を持った選手が揃っていたんだから、もっと一緒に練習できれば良かったんだけれど」

ホテルの17階の客室には、午後の温かい陽光が差し込んでいた。隣に鈴木が座っていることも、ジーコをリラックスさせている。
「私のワールドカップについての見解は、日本に帰国して記者会見で話したことと同じだよ。時間が経っても変わらない。まずはキックオフ時間の問題があった。あの暑さのなかで、2試合続けて15時キックオフだった。日本は比較的スピードがあって、ボールを回しながらスピードをうまく使っていくチームだ。それなのに、一番大切なオーストラリア戦が、ものすごい暑さのなかでの戦いとなってしまった。大会前から話していたが、15時キックオフの試合を2試合続けてやるなんて、絶対にダメだったんだ。我々と同じ条件だったチームは、すべて敗退している。これが果たして偶然なのか。あんな条件では、いくら食事や睡眠に気を配って、しっかり準備をしていても、力を発揮するのは難しい」

オーストラリア代表のビンチェンツォ・グレッラも、「あの試合時間はFIFAのミスだった」と言う。「人生においてずっと記憶に残る試合」と笑顔で日本戦を語るパルマのMFも、「本当に暑かったですね。あんな条件ではいいプレーはできませんよ。試合のクオリティを下げてしまっていたと思う」と肩をすくめた。